アートNPOのためのやさしい会計・経理の基本
アート活動を継続し、さらに発展させていく上で、資金は非常に重要な要素です。そして、その資金の流れを適切に管理し、透明性を確保するのが会計・経理の役割です。
「アート活動は得意だけれど、数字や書類は苦手…」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。特に任意団体として活動されている場合、会計処理はシンプルに行っているかもしれません。しかし、NPO法人化を検討したり、助成金や寄付など外部からの資金を募ったりする際には、適切な会計・経理の知識が不可欠となります。
この記事では、アートNPO/NGOの皆さんが会計・経理に対して抱えるかもしれない苦手意識を少しでも和らげ、安心して取り組めるように、基本的な考え方から日々の実務、そしてNPO法人に求められることまでを、やさしく解説いたします。
なぜアートNPOにとって会計・経理が重要なのか
会計・経理は単に面倒な事務作業ではありません。組織の運営基盤を強化し、活動を継続していくための重要なツールです。
- 活動の透明性向上: 資金の出入りを記録し、明確にすることで、団体の活動がどのように支えられているかを内外に示すことができます。これは、寄付者、助成元、ボランティア、そして地域社会からの信頼を得るために不可欠です。
- 意思決定の支援: 会計情報を見ることで、どのような活動にどれくらいの費用がかかっているか、資金はどこから来ているかなどが分かり、今後の活動計画や予算策定の重要な判断材料となります。
- 資金調達の機会拡大: 助成金や企業協賛、指定寄付など、外部からの資金を得るためには、多くの場合、過去の決算報告書や会計処理体制について説明を求められます。しっかりした会計管理は、信頼性の証となり、資金調達の可能性を広げます。
- 法令遵守: NPO法人になると、特定非営利活動促進法(NPO法)に基づいた会計処理や情報公開が義務付けられます。任意団体であっても、税務申告などを行う場合には適切な会計処理が必要です。
アートNPOの会計・経理の基本的な考え方
NPOの会計には、一般的な企業会計とは異なる特徴があります。営利を目的としないため、利益を計算することよりも、活動内容とそれにかかった費用、そして資金の出所を明確にすることが重視されます。
市民活動を行う団体のための会計基準として、「市民活動団体の会計に関する考え方」や、NPO法人のための「NPO法人会計基準」などがあります。これらの基準は、団体の状況に応じて段階的に導入できるよう配慮されています。
基本的な考え方として、以下の点が挙げられます。
- 継続性の原則: 一度定めた会計処理の方法は、正当な理由がない限り継続して適用します。
- 明瞭性の原則: 会計報告は、団体の財政状態や活動の状況を明確に理解できるよう表示します。
- 単年度独立の原則: 会計期間を原則として1年間とし、その期間内の収支や財産を計算します。
日々の記帳:何から始めれば良いのか
会計・経理の第一歩は、日々の取引(お金の動き)を記録することです。これを「記帳」と呼びます。
- お金の出入りを把握する: 収入(会費、寄付、助成金、チケット収入、物販収入など)と支出(会場費、材料費、謝金、交通費、印刷費など)をしっかりと把握します。
- 勘定科目を決める: どのような収入・支出があったのかを分類するための「項目名」を決めます。これを「勘定科目」と呼びます。例えば、「会場費」「講師謝金」「印刷製本費」「通信運搬費」「事務用品費」「会費収入」「寄付金収入」「助成金事業収入」などです。団体の活動内容に合わせて、分かりやすい科目を設定することが大切です。市民活動団体向けの勘定科目例などを参考にすると良いでしょう。
- 取引を記録する(仕訳): いつ、どのような目的で、どれくらいの金額のお金が動いたのかを記録します。これを「仕訳」と呼びます。例えば、「X月Y日に、企画Aの会場費として10,000円を現金で支払った」という取引があった場合、「(借方)会場費 10,000 / (貸方)現金 10,000」のように記録します。最初は難しく感じるかもしれませんが、パターンを掴めばそれほど複雑ではありません。
これらの記帳を行うためには、ノートやエクセル、あるいは会計ソフトを使用します。
領収書や証憑書類の保管は徹底しましょう
お金の出入りがあったことを証明する書類を「証憑書類」と呼びます。領収書、請求書、銀行の入出金明細、契約書などがこれにあたります。これらの書類は、いつ、何のために、いくら使った(または受け取った)のかを後から確認するための重要な証拠となります。
受け取った領収書や支払った控えなどは、日付や勘定科目をメモして整理し、失くさないように保管しましょう。保管期間は法令などで定められていますが、最低でも7年間は保管することが推奨されます。
NPO法人の会計基準について(簡単に)
任意団体の場合、会計処理の方法に厳格なルールはありませんが、NPO法人になると「NPO法人会計基準」に準拠した会計処理が求められます。
NPO法人会計基準では、主に以下の3つの計算書類と財産目録を作成することが求められます。
- 活動計算書: 一会計期間における活動ごとの費用と、それに対応する収入を明らかにするものです。どのような活動にどれだけのお金が使われたのかを示します。
- 貸借対照表: 会計期間の期末日現在において、団体がどのような財産をどれだけ持っているか(資産)、そしてどのような借金や義務があるか(負債・正味財産)を示すものです。団体の財政状態を表します。
- 財産目録: 貸借対照表の資産の具体的な内容を一覧にしたものです。現金、預金、備品などが記載されます。
これらの書類は、所轄庁への事業報告書の一部として提出し、情報公開の対象となります。専門的な知識が必要になる部分もありますが、NPO法人向けの会計処理に特化した会計ソフトや、専門家(税理士や公認会計士)のサポートを活用することも可能です。
会計ソフトやツールの活用
会計処理を効率化するためには、ツールの活用が有効です。
- エクセル: シンプルな入出金管理であれば、エクセルでも十分対応可能です。ただし、複雑な仕訳や報告書の自動作成には限界があります。
- NPO向け会計ソフト: NPO法人会計基準に準拠した会計ソフトが市販されています。仕訳入力のサポート、各種計算書類の作成機能などがあり、NPO特有の会計処理に対応しています。比較的安価なものやクラウド型のものもあります。
- 汎用会計ソフト: 一般企業向けの会計ソフトでも、設定次第でNPO会計に対応できるものもありますが、NPO会計基準への対応状況は確認が必要です。
どのツールを選ぶかは、団体の規模、取引量、会計担当者のスキル、予算などによって異なります。まずは無料トライアルなどを活用して、使いやすさを比較検討してみることをお勧めします。
会計・経理担当者がいない場合はどうするか
専門的な知識を持つメンバーがいない場合でも、会計・経理の体制を整えることは可能です。
- メンバーの育成: 会計に関する書籍を読んだり、NPO向けの会計セミナーに参加したりして、担当者を育成します。日々の記帳から始めて、徐々にステップアップしていくことが重要です。
- ボランティアの募集: 会計や税務の知識を持つプロボノ(専門スキルを活かしたボランティア)を募集するのも一つの方法です。
- 専門家への相談・委託: 税理士や公認会計士などの専門家に相談したり、記帳代行や決算書類作成を委託したりすることも検討できます。費用はかかりますが、正確性を確保し、担当者の負担を軽減できます。
いきなり全てを完璧に行うのは難しいかもしれません。まずはできる範囲から始め、徐々に知識を深め、必要に応じて外部のサポートを借りながら体制を構築していくことが現実的です。
まとめ
アートNPO/NGOの活動において、会計・経理は避けて通れない重要な運営業務です。確かに専門的な部分もありますが、その基本を理解し、適切な方法で記録・管理することで、活動の透明性を高め、信頼を獲得し、さらに資金調達の可能性を広げることができます。
日々の記帳から始めて、領収書の整理を徹底し、定期的に団体の資金の流れを確認することから始めてみましょう。NPO法人化を検討されている場合は、NPO法人会計基準についても少しずつ学んでいくと良いでしょう。
会計・経理は、アート活動という「表舞台」を支える「裏方」の仕事です。この裏方がしっかりしているほど、表舞台の活動はより輝きを増し、多くの人々の共感と支援を得られるはずです。この記事が、皆さんの会計・経理に対する苦手意識を克服し、活動をさらに強くしていくための一助となれば幸いです。