アートNPO運営ガイド

アートNPOのためのやさしい会計・経理の基本

Tags: 会計, 経理, 運営, NPO法人会計基準, 資金管理

アート活動を継続し、さらに発展させていく上で、資金は非常に重要な要素です。そして、その資金の流れを適切に管理し、透明性を確保するのが会計・経理の役割です。

「アート活動は得意だけれど、数字や書類は苦手…」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。特に任意団体として活動されている場合、会計処理はシンプルに行っているかもしれません。しかし、NPO法人化を検討したり、助成金や寄付など外部からの資金を募ったりする際には、適切な会計・経理の知識が不可欠となります。

この記事では、アートNPO/NGOの皆さんが会計・経理に対して抱えるかもしれない苦手意識を少しでも和らげ、安心して取り組めるように、基本的な考え方から日々の実務、そしてNPO法人に求められることまでを、やさしく解説いたします。

なぜアートNPOにとって会計・経理が重要なのか

会計・経理は単に面倒な事務作業ではありません。組織の運営基盤を強化し、活動を継続していくための重要なツールです。

アートNPOの会計・経理の基本的な考え方

NPOの会計には、一般的な企業会計とは異なる特徴があります。営利を目的としないため、利益を計算することよりも、活動内容とそれにかかった費用、そして資金の出所を明確にすることが重視されます。

市民活動を行う団体のための会計基準として、「市民活動団体の会計に関する考え方」や、NPO法人のための「NPO法人会計基準」などがあります。これらの基準は、団体の状況に応じて段階的に導入できるよう配慮されています。

基本的な考え方として、以下の点が挙げられます。

日々の記帳:何から始めれば良いのか

会計・経理の第一歩は、日々の取引(お金の動き)を記録することです。これを「記帳」と呼びます。

  1. お金の出入りを把握する: 収入(会費、寄付、助成金、チケット収入、物販収入など)と支出(会場費、材料費、謝金、交通費、印刷費など)をしっかりと把握します。
  2. 勘定科目を決める: どのような収入・支出があったのかを分類するための「項目名」を決めます。これを「勘定科目」と呼びます。例えば、「会場費」「講師謝金」「印刷製本費」「通信運搬費」「事務用品費」「会費収入」「寄付金収入」「助成金事業収入」などです。団体の活動内容に合わせて、分かりやすい科目を設定することが大切です。市民活動団体向けの勘定科目例などを参考にすると良いでしょう。
  3. 取引を記録する(仕訳): いつ、どのような目的で、どれくらいの金額のお金が動いたのかを記録します。これを「仕訳」と呼びます。例えば、「X月Y日に、企画Aの会場費として10,000円を現金で支払った」という取引があった場合、「(借方)会場費 10,000 / (貸方)現金 10,000」のように記録します。最初は難しく感じるかもしれませんが、パターンを掴めばそれほど複雑ではありません。

これらの記帳を行うためには、ノートやエクセル、あるいは会計ソフトを使用します。

領収書や証憑書類の保管は徹底しましょう

お金の出入りがあったことを証明する書類を「証憑書類」と呼びます。領収書、請求書、銀行の入出金明細、契約書などがこれにあたります。これらの書類は、いつ、何のために、いくら使った(または受け取った)のかを後から確認するための重要な証拠となります。

受け取った領収書や支払った控えなどは、日付や勘定科目をメモして整理し、失くさないように保管しましょう。保管期間は法令などで定められていますが、最低でも7年間は保管することが推奨されます。

NPO法人の会計基準について(簡単に)

任意団体の場合、会計処理の方法に厳格なルールはありませんが、NPO法人になると「NPO法人会計基準」に準拠した会計処理が求められます。

NPO法人会計基準では、主に以下の3つの計算書類と財産目録を作成することが求められます。

これらの書類は、所轄庁への事業報告書の一部として提出し、情報公開の対象となります。専門的な知識が必要になる部分もありますが、NPO法人向けの会計処理に特化した会計ソフトや、専門家(税理士や公認会計士)のサポートを活用することも可能です。

会計ソフトやツールの活用

会計処理を効率化するためには、ツールの活用が有効です。

どのツールを選ぶかは、団体の規模、取引量、会計担当者のスキル、予算などによって異なります。まずは無料トライアルなどを活用して、使いやすさを比較検討してみることをお勧めします。

会計・経理担当者がいない場合はどうするか

専門的な知識を持つメンバーがいない場合でも、会計・経理の体制を整えることは可能です。

いきなり全てを完璧に行うのは難しいかもしれません。まずはできる範囲から始め、徐々に知識を深め、必要に応じて外部のサポートを借りながら体制を構築していくことが現実的です。

まとめ

アートNPO/NGOの活動において、会計・経理は避けて通れない重要な運営業務です。確かに専門的な部分もありますが、その基本を理解し、適切な方法で記録・管理することで、活動の透明性を高め、信頼を獲得し、さらに資金調達の可能性を広げることができます。

日々の記帳から始めて、領収書の整理を徹底し、定期的に団体の資金の流れを確認することから始めてみましょう。NPO法人化を検討されている場合は、NPO法人会計基準についても少しずつ学んでいくと良いでしょう。

会計・経理は、アート活動という「表舞台」を支える「裏方」の仕事です。この裏方がしっかりしているほど、表舞台の活動はより輝きを増し、多くの人々の共感と支援を得られるはずです。この記事が、皆さんの会計・経理に対する苦手意識を克服し、活動をさらに強くしていくための一助となれば幸いです。