アートNPOが知っておきたい著作権の基本と活動での注意点
アートNPOやアート関連の任意団体として活動されている皆さんにとって、著作権は身近なようで、少し難しいと感じるテーマかもしれません。展覧会で作品を展示する、イベントの様子を写真に撮ってウェブサイトに掲載する、広報物を作成する、といった日々の活動の様々な場面で、著作権は関わってきます。
「よく分からないまま進めてしまっている」「何に注意すれば良いのか分からない」といった不安をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。著作権について正しく理解することは、皆さんの活動を円滑に進め、将来的なトラブルを防ぐために非常に重要です。
この記事では、「アートNPO運営ガイド」の読者である、主に任意団体からNPO法人化を目指す方や、運営基盤を強化したい実務担当者の皆さまに向けて、アートNPO活動で知っておくべき著作権の基本と、特に注意しておきたいポイントについて、平易な言葉で解説していきます。
著作権とは何か? 基本を知る
まず、著作権の基本的な考え方から押さえておきましょう。
著作権法は、「文化的な所産である著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産について著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与すること」(著作権法第1条より抜粋)を目的としています。
簡単に言うと、思想や感情を創作的に表現したものを「著作物」といい、それを作った人(「著作者」)に与えられる権利が「著作権」です。
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どんなものが「著作物」になるのか? 文芸、学術、美術、音楽といった分野に属するもので、思想または感情を創作的に表現したものすべてが著作物になり得ます。具体的には、絵画、彫刻、写真、映像作品、文章(小説、論文、記事など)、楽曲、演劇、建築物、プログラムなどが該当します。皆さんが企画・制作される作品そのものや、公演の台本、記録写真、ウェブサイトのデザインなども著作物です。
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著作権はいつ発生するのか? 日本の著作権法では、著作物は「創作されたとき」に権利が発生します。登録や手続きは一切不要です(無方式主義といいます)。作品が完成したその瞬間に、著作者に著作権が発生するのです。
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著作権はいつまで保護されるのか? 原則として、著作者が亡くなった後、70年間保護されます。団体名義の著作物などの例外もあります。
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著作者が持つ権利(著作権に含まれる主な権利) 著作権には、著作物をどのように利用するかをコントロールするための様々な権利が含まれています。代表的なものとして、以下のような権利があります。
- 複製権: コピーすること。
- 上演権・演奏権: 公に上演したり演奏したりすること。
- 公衆送信権: インターネットなどで公に送信すること。
- 展示権: 美術の著作物などを公に展示すること。
- 譲渡権・貸与権: 著作物の原作品やコピーを譲渡したり貸し出したりすること。
- 二次的著作物の創作権・利用権: 翻訳、編曲、変形などにより新たな著作物(二次的著作物)を作ったり利用したりすること。
これらの権利は、原則として著作者だけが行うことができます。他者が著作物を利用する際には、原則として著作権者の許諾が必要になります。許諾を得ずにこれらの行為を行うことは、著作権侵害となる可能性があります。
アートNPOの活動で特に注意すべき著作権のポイント
皆さんの日々の活動の中で、特に著作権の知識が重要になる場面は多々あります。具体的にどのような点に注意すべきか見ていきましょう。
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自分たちの活動で生まれた著作物の権利帰属を明確にする イベントの記録写真、公演の映像、広報チラシのデザイン、ウェブサイトに掲載する記事や写真など、皆さんの団体が活動の中で制作するものは全て著作物になり得ます。これらの著作物の著作権は、誰に帰属するのでしょうか?
- スタッフや団体の名義で活動するボランティアが制作した場合: 原則として、制作した個人(スタッフ、ボランティア)が著作者となり、著作権を持ちます。
- ただし、「職務著作」となる場合もあります: 法人や団体などの「発意」に基づき、その法人などの「業務に従事する者」が「職務上作成」した著作物で、公表する場合に「法人等の名義」で公表するものは、規約等に別段の定めがない限り、その法人等が著作者となる(著作権法第15条)。NPO法人であれば、この「職務著作」の規定が適用される可能性があります。任意団体の場合でも、団体のルールとして明確にしておくことが重要です。
【注意点】 * ボランティアや外部委託者が制作した成果物について、団体が自由に利用したい場合は、あらかじめ「著作権は団体に帰属する」あるいは「団体は無償で自由に利用できる」といった内容を、覚書や契約書、活動参加規約などで明確に定めておくことが非常に重要です。これが曖昧だと、後々トラブルになる可能性があります。 * 特にウェブサイトや広報物など、継続的に利用・改変する可能性のあるものについては、権利処理をしっかり行いましょう。
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他者の著作物を利用する場合 外部の著作物を皆さんの活動に取り入れる場合は、原則として著作権者の許諾が必要です。
- 展覧会での作品展示: 他のアーティストの作品を展覧会で展示する場合、原則としてそのアーティスト(著作権者)の許諾が必要です。
- イベントでの音楽利用: 公演やイベントで既存の楽曲をBGMとして使用したり、演奏したりする場合、JASRACなどの著作権管理団体や著作権者への許諾手続きが必要になる場合があります。利用形態によって手続きが異なりますので、事前に確認が必要です。
- ウェブサイトや広報物での写真・イラスト・文章の使用:
- インターネット上で見つけた写真やイラスト、文章を無断で使用することは著作権侵害にあたる可能性が高いです。「フリー素材」とされているものでも、必ず利用規約を確認し、規約の範囲内で適切に使用しましょう。出典元や著作者の表示が必要な場合もあります。
- 書籍や雑誌の記事、他のウェブサイトの文章などを引用する場合、「引用」のルールを守れば許諾なく利用できます。適法な引用とは、
- すでに公表されている著作物であること
- 公正な慣行に合致すること
- 引用の目的上、正当な範囲内であること
- 引用部分が明確に区別できること(カギ括弧を付けるなど)
- 出典を明記すること といった要件を満たす必要があります。本文が「主」であり、引用部分が「従」であるという関係性も重要です。
- SNSでの情報発信: イベント告知や活動報告で、関係者の写真や作品の写真などをSNSに投稿する際も、著作権や肖像権に配慮が必要です。写っている人に許諾を得る、作品については著作権者に許諾を得るなど、慎重に対応しましょう。
著作権トラブルを避けるための対策
著作権に関するトラブルは、知らなかった、うっかりしてしまった、という場合でも発生する可能性があります。トラブルを未然に防ぐために、以下の点を心がけましょう。
- 許諾は必ず明確に: 他者の著作物を利用する際は、口頭だけでなく、メールや書面などで利用許諾の範囲(どのような目的で、どの期間、どのように利用するかなど)を明確にしておきましょう。
- 「団体に権利を帰属させる」または「利用許諾を得る」契約・規約の整備: ボランティアや業務委託契約を締結する際に、成果物の著作権の取り扱いや、活動に関連して生じた著作物の利用に関する条項を盛り込むことを検討しましょう。
- 出典・権利者の表示: 利用規約や許諾条件で求められている場合はもちろん、可能な限り、著作物の出典や著作権者名を明記する習慣をつけましょう。これは敬意を示すとともに、誤解を防ぐためにも有効です。
- 組織内での啓発: 運営メンバーや主要なボランティアメンバー間で、著作権に関する基本的な知識や注意すべきポイントについて情報共有する機会を設けることをお勧めします。
- 専門家への相談: 複雑なケースや判断に迷う場合は、弁護士や弁理士といった著作権の専門家に相談することも重要です。自治体やNPO支援センターで無料相談窓口を設けている場合もあります。
まとめ
アートNPO/NGOの活動において、著作権は避けて通れない重要なテーマです。一見難しそうに思えるかもしれませんが、基本的なルールと、自分たちの活動で特に注意すべきポイントを押さえておけば、多くのトラブルは回避できます。
この記事でご紹介したポイントが、皆さんの活動をより安心して、そして健全に進めていくための一助となれば幸いです。著作権に適切に配慮することは、アーティストやクリエイターへの敬意を示すことでもあり、文化の発展に貢献するアートNPOとして当然果たすべき役割と言えるでしょう。
分からないことがあれば、一人で抱え込まず、信頼できる情報源にあたるか、専門家への相談も視野に入れてみてください。皆さんの素晴らしいアート活動が、著作権の知識でさらに輝くことを応援しています。